魔女の棺







「無駄なことは、しない主義です」


 そう言って彼は、美しく笑った。
 コンマ3秒、怯んだ自分に、気付かなかったわけではない。それでも無理にやり過ごす。サエグサはふんと鼻を鳴らし、
「…言いやがる」
 と、嗤って見せた。




 じゃあな、と、後ろ手に手を振って、サエグサはコントロールルームを出た。
  ま、こんなもんか
 目的の4割は達成したので、まずまずと言ったところだろう。長居は禁物。今回とて、相手の注意力が低下していたから良かったようなものだ、とサエグサは冷静に自己評価を下す。
 適度に明るい無機質な廊下に、自分の足音だけが上滑りする。その音は虚ろなようで、僅かに水気を帯び、彼に今日が雨だったことを思い出させる。ヒトがいくら堅牢な檻を構えたところで、大地に抗えるわけもない。
 サエグサは大きく息を吐いた。
 そんな過剰な反応が、彼に昔日の残滓をまざまざと思い起こさせる。ジョロウグモどころか、川の声も風の温度も遠くなってなお、まだ内側から望郷を叫ぶ。
  くだらねえ、
 と、サエグサは一つ舌打ちした。
 次いで、先ほど見かけたユキムラの真剣な顔も思い出す。魅入られたように、画面に映るイキモノを見詰めていた同期。自動人形と揶揄される(主にサエグサに)彼にしては、妙な行動だ。仕事以外のことには、淡泊を通り越して冷淡な男なのに。
 それが、切実と言ってもいい横顔だった。唐突にネイチャリストになったわけでもあるまい。モニタの光をくっきりと反射する、端正な、というより完璧な美貌が鮮やかに甦る。しかし、過ぎたるは及ばざるがごとしで、綺麗すぎてむしろ気味が悪い、などとサエグサは思う。現にその容貌が、必ずしもユキムラ自身を幸福にしないことも事実だった。
 そして、中身も文句なしの秀才だ。入隊時の成績は同期の中でも三本の指に入るし(十指なら自分も入る、くらいの気概と自惚れはサエグサにもあったが)、当初の配属は中央参謀本部だったはずだ。そんな非の打ち所がない同期がなぜ、今ではこんな僻地の閑職に甘んじているのか。サエグサには正直、さっぱり理解できない。もちろん、エリート候補だった彼がココに回されるには、それなりに因果も事情もある。しかし本質的にはユキムラの落ち度ではないし、左遷など、彼がその気になればものの数ではなかろう。彼がココに拘泥する理由が、
 あるとすればもちろん、あの女だ。
 それは間違いない、とサエグサは断定した。するとユキムラの美貌に、班長の飄々とした後ろ姿が取って代わる。のらりくらりと怠惰なようでいて、千里眼で神出鬼没。どこにでも現れ、どこにも居ない。まるで得体が知れない。ただその小柄な影が、ユキムラの金科玉条なのだ。
 原因は分かっているが、法則は謎だ。第8管区の七不思議に数えるべきだろう。ユキムラの性癖からすれば肉欲ではあり得ず、だからといって忠誠や敬愛とは異質だ、というのがサエグサの見解だった。
 サエグサはぴたりと、歩を止める。


 むしろあれは、畏怖か…耽溺に近い。


 ココに来た当初、思わず「惚れてんのか」と問うたことがある。その時のユキムラは何も答えず、ただ淡く笑った。それは間違いなく肯定だったが、肯定ではなかった。
  あの時も、
 さっきのカオと同じだったな、と。サエグサはそんなことを思った。
 まあ、どうでもいいな、そんなことは。と、サエグサは声に出さずに呟いて、再び前進を開始した。いずれにせよ、ユキムラがココの要なのは間違いないし、その彼の律速が班長だ、という事実を把握していればいい。今のところは。
 そう、サエグサが胸の内で戒めた瞬間、


  かしゃん


 軽く儚いものが砕ける音が、した。




 考えるより先に、身体が動いた。
 サエグサの踵が廊下を蹴る。じゃりっと、下げた鎖が一拍遅れて追いかける。中庭方面、次の角を右、と見当を付け、サエグサは颯爽と身を翻す。5秒はかかっていない。果たして、その先には。
「どうした?」
 中庭に面したピロティから、ガラス張りの温室の入り口。小さくて華奢な影が振り向く。それは、他の誰かと間違いようがなかった。
「ナナオ、」
 間合いまで近寄って名を呼ぶと、ナナオはふいっと顔を背けた。足下には薄いガラスのバラバラ死体。サエグサは、それとナナオの顔を見比べた。ナナオの頭は彼の腹ぐらいまでしかない。年齢ならサエグサの半分以下だろう。
 初めて紹介されたときは、さすがに面食らった。もちろん、こんな所に子どもがいて良いはずもないが、班長の身内を一時預かり中だという話だ。詳しいコトは例の如くはぐらかされたが、サエグサが試しに「産んだんですか?」と鎌を掛けたら、「そうだったら良かったんだけどねぇ」などと、からりと笑われた。まあ、母親という単語と一番遠い人物ではある。
 そして、ナナオは…うつくしい、子どもだった。
 緩やかな柳の眉も、アーモンド型の瞳も、赤い唇も、よく通った鼻筋も、きめの細かい肌も、艶やかな髪も、長く伸びた手足も、完璧なバランスが保たれている。まだ十かそこらで、この完成度は異常だ、とさえ思う。サエグサは、幽かに眉をひそめた。
 ユキムラにも共通するが、あまりに整いすぎた容姿というのは、生物臭さを一挙に失わせる。作りものめいた美しさは、魔女の呪いで人形に変えられたおとぎ話の姫君のようで、どうにもやりにくい…と、サエグサはまったく言い訳にはならないことを考えた。また、ある程度以上に整った容貌というのは何処か似通うのだろうか。班長とナナオより、ナナオとユキムラの方が妙に似ているという矛盾。やりにくいのは、主にこちらの理由が勝っているかも知れない。
 ただ、救いがあるとすれば、鉄面皮(冷静沈着とも言う)のユキムラと違って、ナナオの喜怒哀楽が子どもらしく鮮明なことだ。よく怒るし、笑う、わがままも言うし、走りまわる。その時、魔女の呪いは解けて、ナナオはきらきらと輝くただの子どもになる。今も、泣きそうな顔で、俯いたままだ。
 一応、女と子どもには親切に(=除く班長)をモットーとするサエグサは、一つ息を吐いてから再び訊ねた。
「どうした? ケガしたのか?」
 ふるふると、ナナオは小さく首を振る。だが、拳を握りしめたまま、それ以上は答えようとしない。サエグサは視線をガラス片から上げて、温室へ向ける。ココの中庭には、誰の趣味かは知らないが、小規模ではあるがしっかりした温室が設えてある。実は、サエグサはそこが密かに気に入っていた。
 濃密な緑と土の匂い。
 ナナオの後ろから覗き込めば、入り口付近の台に植木鉢が三つ、そのうちの二つは円筒形の薄いガラスケースで覆われていた。ということは、このガラス片は残り一鉢用のものだったのか。サエグサは努めて穏やかな声を出した。
「こいつは、あれのケースか?」
 今度はこくりと、ナナオが頷いた。
 サエグサはゆっくりと温室に入ると、ガラスケースに覆われた鉢に顔を近づける。
 鉢には、植物が育てられている気配がなかった。いずれの鉢にもいくらかの枝が挿し木され、乾燥を防ぐ処置がされているのが見て取れる。この箱庭の主は植えられたものではなく、どうやら枝にしがみつくモノのようだった。
「蛹か…」
 と、サエグサは小さく呟いた。蝶だろうか、枝の中程に昆虫の蛹が器用に抱きついている。ガラスケースは、蛹の保護と成虫の確保のためのケージなのだろう。
「なんの蛹だ?」
「クロアゲハ」
「ほぉ…」
 よくも手に入ったものだ、と内心、サエグサは舌を巻く。班長か、博士あたりが中央のラボから持ち出したのか。実に希少だ。羽化した蝶は、この温室の中で飼う予定だろう。班長がナナオに世話を任せる様子が目に浮かんで、ふうん、と彼は少し感心した。
「それで、こっちの蛹が羽化したんだな?」
 サエグサの言葉に、ナナオは強く眉を寄せ、更に唇を引き結ぶ。ガラスケースが失われた鉢の蛹は、既に空だった。ならば、蝶の住み処は容積が数十倍になったガラスのケージに移っているだろう。サエグサは思わず頭上を見渡した。
 しかし、こんなにもナナオが不機嫌な理由が分からない。よく見ようと覆いを外したところで逃げられて、癇癪ついでにケースを割ったか、とサエグサが腹の中で予想していたところ、
「…しなかった」
「なんだって?」
 ナナオの答えは予想外のものだった。
「蜂が居た」
「はぁ? はち? ああ、蜂か」
 口に出しながら脳内変換を終えたサエグサは、言ってから息を呑んだ。


  寄生蜂か


 その可能性に気付いて、サエグサは片眉をあげる。
 寄生蜂、と呼ばれる蜂がいる。昆虫、特にチョウの幼虫に卵を産み付け、孵化すると宿主である幼虫の身体を餌として成長する。弱りながらも宿主が蛹となると、その変態に乗じて全てを食い尽くしてから蛹化し、自分だけが羽化する蜂がいる。おそらくは、この蛹の主は寄生されていたのであろう。いつの頃からか…ひょっとすると、生まれたときから。
 元々、昆虫類の変態自体が非常に特異な現象だ。幼虫の躯は一部の神経系と呼吸系を残し、蛹の中で全体組織が造り替えられる。生きながら味わう、死と生の転換。
 クロアゲハの幼虫は、ある日。古い躯に別れを告げ、棺に身を横たえる。棺はいつしかゆりかごとなり、新たな生のはじまりを祈りながら待つその時、訪れるのは。
 徐々に弱る身体を必死に鼓舞し、蝶になる夢を見たまま、蝶になることなく、
 喰われてしまった。
 サエグサは、そっと唇を舐める。おそらく、蜂を発見したナナオは、蛹の邪魔になると思って、蜂を追い出すためにケースを外した。すると、中の蛹は空っぽ。聡い子だ。空の蛹と蜂の因果関係に思い至るのに、それほど時間は要らないだろう。
「その…蜂はどうした?」
「知らない。どっか飛んでった」
 ぎゅっと結んだナナオの拳は、元が色白なだけに、ほとんど青白い。
 不用意に空気を揺らさないよう、サエグサは口を開く。揺らげば弾けてしまうのは、ナナオのけなげな意地だろうか。それとも…
「しょうがねえよ…生き物ってのは、そういうもんだ」
 言葉を紡ぐサエグサの脳裏に過ぎる、モノクロームの幻。
 寄生蜂はまるで、魔女のように残酷で、狡猾。
 気付かれぬように、蝶の幼虫に卵を産みつける。静かに、生かさず、殺さず、蜂の仔は蝶の仔を搾取する。何が行われているのか、他の誰も気がつかない。
 そして鬼子は生まれ出でる、宿主の躯を食い破って。
 妖精のゆりかごは、魔女の棺となった。
 美しい黒衣を翻す妖精の代わりに、隠微に黒く光る魔女が現れる。


 ただし。
 蛹の主が誰なのか。その瞬間まで、判らない。
 ぬらりと深紅の血を滴らせ、棺を内側からを開けるのは、妖精か、魔女か。知っているは…


  お前は誰だ?
  生まれてはならぬ 忌むべき子ども


 
  ごぽりと、
 サエグサの胸に、悪意の泥がわいた。
「でも…だって、リクはチョウになるって、」
 涙を堪え、必死になにかを訴える子どもの手を振り払うように、サエグサは囁いた。呪いの言葉を。
「他のも、そうかもな」
「えっ」
「そっちの二つだよ、もしかしたら残りも」


  もう喰われているかも知れない


 言ってちらりと横を見遣ると、ナナオの長いまつげの下、漆黒の瞳が大きく見開かれていた。じわりと、黒曜石が潤んでゆく。
  泣かしたな、
 と、サエグサが覚悟した瞬間。
 だっ、と。止める間もなく、ナナオは駆け出した。後ろ姿がみるみる遠ざかる。
 サエグサは再び、舌打ちを一つ。


 あとに残るのは、雨に薫る艶めいた緑と、鈍く光る酷薄なガラスの欠片。






 それから一週間。
 自身の卑しさに心底落胆したサエグサは、少女に謝罪する機会を逸していた。おまけに、なにか勘付いたらしいユキムラの厭味攻撃(当社比5.3倍)にあったりもしたが、反撃も出来なかった。
 言い訳など、出来るはずもない。
 意図して傷つけた、黒揚羽の幼生。
 だからその朝、申し送りを終えたサエグサが、だらだらと歩きながら中庭回廊へ差し掛かったとき。例の温室の入り口に、その人影を認めた瞬間。なるほど、これが年貢の納め時というヤツか、とサエグサは観念した。
「…ナナオ」
 呼んだ声は僅かに掠れていた。
 ナナオはきゅっと肩越しに振り返ると、しっかりとサエグサと視線を合わせてから、また前を向いた。
 最低最悪の状況、でもなさそうだ、と。サエグサはそっと胸をなで下ろし、そのすぐ後で、そんな自分に腹が立った。ガキにこうも振り回されるとは、俺もヤキが回ったもんだ。
 サエグサは一つ頭を振ると、静かに口火を切った。
「羽化したか?」
 例のガラスの箱庭の前に立ち、ナナオは小さく、しかしはっきりと答えた。
「まだ」
「そうか…」
 沈黙。
 呼吸をいくつ数えたか。うかうかしていると、本当に羽化が始まりかねない。サエグサが腹をくくって、植物の香りをすっと吸い込んだ瞬間。
「気にしない」
 ぽちゃりと、静寂の沼を弾く雫。
「は?」
「別に、チョウじゃなくても、いいんだ。ちゃんと生まれるなら」
 ガラスの檻を見詰めたままで、呟く声は。ナナオは細い指先でそっと、透明な曲面をなぜる。
「チョウでも、ハチでも…同じことだ」


  棺を開けるのが、
  妖精でも、
  魔女でも…


  同じ?


 絶句する青年を他所に、少女は、指の動きと同じくらい優しく続けた。
「リクがそう言った」
「…班長が?」
 うん、とナナオは小さく頷く。「リクが言うなら、それがほんとうだ」


  それがほんとうだ


 迷いなく言い切る、凛としたナナオの横顔に、サエグサはしばし見とれた。信頼とはなにか、という質問をされたら、今のナナオの瞳を示せば事足りるだろう。
 苛立たしいくらいに、強く。
  それなりに、保護者ではあるわけか。
 腹の内で嘯いて、サエグサはすっと身を引いた。やはり、あの女は得体が知れない。
「…そうだな」
 サエグサはそっと頷いてみたけれど、このままではどうにも、負けっ放しのようで癇に障る。無論、それはただの見栄なのだが、そこには目をつぶって切り出した。
「じゃぁ、賭けてみるか」
「えっ?」
 大きな目をぱちりと瞬かせたナナオに、サエグサはにっと笑ってみる。
「その蛹が、チョウになるか、どうか」
 


  棺の主は、誰だ?






 翌朝。
 謁見に訪れたサエグサが、温室から出て来た時のこと。
「眠り姫はご機嫌いかが?」
 声が降ってきた。
 見上げれば、二階の窓から、班長がひょいと顔を覗かせている。サエグサは片眉を上げた。
「誰ッすか、それ」
「クロアゲハだよ、決まってるじゃないか」
「…まあ、そうですね」
 当然のように答えるリクに、サエグサとしても、オスだったら王子様ですが、と突っ込む野暮はしない。
 今朝は珍しくよく晴れて、光の透明度は高い。涼やかな風がさらさらと、見下ろすリクの黒髪を揺らす。同色の瞳が、天然の猫のようにくるりと動いた。
「羽化は?」
「もうちょっと、かかりそうです」
「そう」
 と、リクは気のない風で軽く頷いてから、
「それにしても…大人げないよ、さえっち」
 にやり。
 出し抜けに言って、不敵に笑う。何のことかと、訊ね返すのは野暮というより愚かだ。サエグサは渋面を作って、ぼそりと応えた。
「…知ってます」
「うん。子どもに八つ当たりは、良くないね」
  なんだと…?
 聞きとがめ、鋭く相手を見返す。と、リクはゆったりと微笑んでいた。その柔らかさに、サエグサは毒気を抜かれ、思わず見詰め返す。
「賭を、したんだって?」
「…はあ」
 答える必要はなかったのに、つい答えてしまうのは後ろめたさか。サエグサはごりごりと頭をかいた。
 ふうん、と今度は興味深げに頷いてから、リクは小首を傾げた。
「で、サエっちはどっちに賭けたんだい?」
 誰にも言っちゃダメだよ、絶対だ、と。サエグサの内耳に、真摯な瞳で念を押すナナオの声が谺する。子どもとのこの手の約束を守る程度に、彼は律儀な男だ。
「…秘密です」
 ぱちくりと、リクが瞬きする。顔は似ていなくても仕草は似るんだな、とサエグサが妙に納得していると、リクは、はあぁ、と盛大に溜息を吐いた。
「ヤダねぇ、君もか」
「へ?」
「ナナオもさ、内緒だって言うんだよ。約束したからって」
「…はあ」
 曖昧に頷くサエグサに、リクは首を振ってからしみじみと呟いた。
「あーあ、あのナナオが、男と秘密の約束をするとはねー。五年は早いよ」
「な、なんすか、それ。誤解を生むような言い方、止めてくださいよ、人聞きの悪い」
 サエグサはきつく眉をひそめるが、彼の不機嫌はまるっきり無視して、リクは歌うように続ける。
「さみしいなぁ。女の子は大人になるのが早くてねぇ」
「だから、違うって…俺、ロリコンじゃないんで」
 苦り切った口調で抗議するサエグサから視線を外して、リクはそっと囁いた。


「ま、ナナオは悪くないと思うよ。あの子は………だから」


 えっ、と、訝しげに聞き返すサエグサに視線を戻すと、班長はすいっと目を細めた。
「あの子はうちの、自慢の末っ子でね」
 ふうっ、と風が吹きすぎ、光が流れるようだった。
 単なる親バカ、というには穏やか過ぎる声に、サエグサが答える声を探していると、
「それにしても楽しみだねぇ、なにが出てくるか」
 一転、リクは楽しそうに、くらりと笑う。それから「ああ、そうだ」と、思い出したように続けた。
「あれさ、もし、チョウでもハチでもなかったら、その勝負、僕がもらっても良いかい?」
「は? や、それは…」
 唐突な申し出に、サエグサは戸惑った。
 クロアゲハでも、寄生蜂でもない場合。そんなことが、あるだろうか?
 …ないだろう。ならば、お嬢さんに断らずとも、権利の譲渡は問題ないか。と即断し、サエグサはひょいと肩をすくめた。
「ええ、まあ、いいですけど」
「そう。ありがとう」
 リクは、にこりと笑った。


 じゃあねー、とリクが姿を消した窓を、サエグサはしばらく眺めた。
 どういうつもりか、どこまで知っているのか… やはり、食えない人だ。
 とりあえず、あのサエっちとかいう呼び名だけはどうにかして欲しい。と、サエグサはかなり切実に思っているが、隊の状況を鑑みると、それが相当困難であることも明白だった。
 サエグサは大きく溜息を吐いた。
 それから、肩越しに振り返る。


 ガラスケースの中、囚われの眠り姫。
 あの、奇妙な棺を開けて現れるのは、妖精か、魔女か。




  棺の主は、誰だ?























 ロリコンでは、ないと思います、サエグサ氏は。女好きだとは思いますが。
2008.5.5



Up


*Close*